ちゅうちゃんの過ごした夏休み
2017年8月10日
小学3,4年ころまでの夏休みはただ遊び呆けた記憶だけが残っています。
水泳と海水浴
山に囲まれた盆地の中を清流がゆったりと流れていました。
お昼を早めにすませ、近所の友達を誘いあって40分ほどの道のりを急ぎます。
いでたちは麦わら帽子、ランニングシャツ、半ズボン(パンツははかず黒い三角ふんどし)、足元はゴムぞうりか藁ぞうり、手ぬぐいと黒い水中めがね、たまにおやつのきゅうりかトマトがすべての持ち物。
川の中洲の河原にランニングシャツと半ズボンを脱ぎ捨て、一斉に水の中へ。
真夏でも水は冷たく、ほてった体は30分ほどで冷えてきて唇が震えてきます。
監視役のおじさんが50分ごとに鐘をならすと河原に戻り焼けた小石に寝そべり体を温めます。
木綿の袋に入れて泳いだきゅうりやトマトは冷たく、口の中は青臭くて甘い香りが広がります。
水中メガネで見る川の中には、魚やえびが目の前で泳いでいます。
フナ、鮎、赤いなまず、たまにうんこも流れてきますがぜーんぜん気にしません。
ちゅうちゃんは犬かき泳ぎしかできず、クロールで向こう岸まで泳ぎわたる友達がずいぶん大人に見えたものです。
河原に仰向くと、山には堂々たる入道雲が沸き立っております。
「遠い山のむこうの知らない町よ、いつか馬車に乗って行きたい町よ、遠い雲の下の知らない町よ、楽しいことがありそな町よ」子ども心に「世界を股にかけて活躍する男になりたい」と思うようになった原風景がここにあります。
年に1、2度連れて行ってもらったのは天橋立です。
子ども会の父兄に引率され汽車とバスを乗り継いできた大海、日本海。
こんな大きな世界に少年は興奮の極みです。
いつものように黒い三角ふんどしで海に入り存分に海と戯れます。
腰には母親が用意してくれた綿袋に煎ったソラマメが入っています。半日の塩付けですっかりやわらかく絶妙の塩加減です。
海から出て小休止に一粒ずつ塩豆を味わいます。
強い日光で体は火ぶくれになっていますが、少年少女たちには海水浴の勲章です。
数日経って背中や腕に薄くて白い膜が浮き上がり、少しずつ剥がしてゆくのが快感です。
気だるい帰り道
泳ぎ疲れた小学生にはずいぶん遠い帰り道でした。
でも途中には魅力的な場所がいっぱいありました。
警察署の剣道場の壁にはちょうど子ども目線の高さに小窓があり、暑いさかりにおまわりさん達が激しく竹刀で打ち合っていました。
勇猛な大人たちの気迫ある大声にうっとりし、英雄の動きに時間の経つのも忘れるほどでした。
桶屋の仕事場では職人さんが杉の板をけずる音と香りが満ちていました。
薄くて長いかんな屑を貰ってなめると向こう側がよく見え別世界のようでした。その味は思い出せませんけどね。
一方、さわがしいのがブリキ屋さんです。
ブリキ板をはさみで長細く切り、金槌で板をたたいて丸め、最後はハンダで固めて雨といが出来上がりました。
大人の手技に息を止めて見物したものです。
子どもにとりすべての職業がかっこよく見えて将来の夢を描ける時代でした。
親たちは夕方、子どもが揃っていたら良しという程度で、何をしてきたかは一度も聞いてきたことはありません。
ただ年に1人か2人溺れかけた子どもの噂もあって、危険と紙一重の世界でもありました。
自動車の排気ガス
たまに通過する自動車の排気ガスは子どもたちにとり特別な空気でした。
薄れる前にいっぱい吸い込もうと口を大きく開け車のあとを追いかけました。
どんな香りだったかは覚えていないけど、手の届かないハイカラな世界の中に浸った気がしました。
セミ採り競争
遊び場の1つに広い墓地がありました。
夏はセミと子どもと蚊の天国です。
大木には無数のセミが鳴き暮らしていました。
半透明の網を長い竹さおにくくり、手当りしだいに採ってゆきます。
あぶらゼミは眼中になく、大型で羽が透明、鳴き声が大きい帷子(かたびら)ゼミが相手です。
高い枝にとまるので墓石に登り、和尚さんに見つかって追いかけられたり、足をすべらし落ちて足をすりむくこともありました。
友達とは一日の捕獲量で競います。
30匹を超えると自慢できます。虫かごの中でもやかましく鳴く生命力には驚きです。
夕方には全部放しましたが、また翌日捕まえられるマヌケもいたはずです。
蚊帳とほたる
大きな蚊帳を張るのが寝る前のちゅうちゃんの役目でした。
10畳の部屋いっぱいに張るそうとう大きな代物です。
親、姉弟全員が入る大空間で嬉しくてなんども出入りし「いいかげんにせい!蚊が入る!!」と怒られたものです。
近くの小川は蛍の生息地で、暗くなると蛍が飛び交います。
弟を連れて蛍狩りです。
飛び方が優雅(あるいはマヌケ)なので手でも簡単に捕まえます。
5、6匹ほどにして持ち帰り蚊帳の中に放します。
部屋を暗くするとゆっくりと呼吸するように点滅しながら飛んだり蚊帳にとまったりしています。
蛍と蚊帳の匂いが同じで夏の香りのそのものでした。
翌朝、蛍は固くなっており悪いことしたな、とチクッと痛みました。
思い出すのは「たらちねの母がつりたる青蚊帳をすがしといねつたるみたれども」です。
※蚊帳とは?→コチラへ。(Wikipedia)
子ども会
子だくさんの町内には大きな子ども会ができていて、一年を通して行事を繰り広げてくれました。
町内の小学校の先生が高学年の生徒がリーダーになるよう仕向けてくれました。
3月は卒業生を送る会、4月はお花見、8月は忙しくて七夕、肝試し、海水浴、地蔵盆、花火大会、ラジオ体操、12月の餅つきと新年のどんど焼き、毎月の幻燈会、場所は町内の中心にある大きなお寺の境内と伽藍でした。
墓地を縦横無断に暴れ回るわるガキを「ま、仕方ないか!」と受け入れてくれた和尚さんの度量に今になって感服しております。
跡取り息子はちゅうちゃんより2つ年下で頼りない若坊さん、遊び仲間の間では軽んじられていました。
数年前このお寺を訪れました。この若坊さん立派な和尚になり、檀家の前で心にしみる説教をしておられました。
「立派になられました」、「ちゅうちゃんもお元気でなによりです」の短いやりとりで50年の空白は埋められ、お互いの健勝を認め合いました。一期一会。
肝試し
8月23日の地蔵盆は関西では重要な仏事の一つです。
辻々に祀られた地蔵尊を敬う、特に子ども向けの年中行事です。
子ども会ではお寺の境内を中心に幻燈会や肝試しが強行されます。
小学校中学年、高学年は肝試し参加が絶対条件です。
墓地の一番奥にある印を持って帰れば合格です。
途中に灯っている蝋燭を目印に奥に進みます。
必ずおばけがおそいかかります。
無事通り抜け帰ってきたら一人前。甲高い悲鳴を聞いておじけづく6年生を見下す5年生もいます。
この時ガキ大将の資格の入れ替わりがあるようです。
お菓子を食べながら見る幻燈会のストーリー、いつまでも記憶に残る世界です。
by.ちゅうちゃん